さて、前回続きでA書士の平成26年6月12日大阪高裁判決についてですが、まず、行政書士の弁護士法72条違反について争われた裁判で最新と考えられるものを紹介します。

最近の2つの判例を比べてみる

A,平成26年6月12日大阪高裁

行政書士が、交通事故の当事者間で将来法的紛議の発生することがほぼ不可避であることを認識しながら、当該事故の被害者との間で締結された準委任契約に基づき、保険会社宛ての保険金の請求に関する書類等を作成し提出することは、行政書士法1条の2第1項にいう行政書士の業務に当たらず、弁護士法72条により禁止されている行為であるから、上記契約は無効であるというべきである。

(判決の全文がほしい方は連絡ください)

この判決が言うには、紛争が生じている場合には「行政書士法の権利義務書類」であっても「弁護士法の72条違反」に該当するので行政書士は行えないといっています。

B,平成27年9月2日高裁

「弁護士法72条のいう、その他一般の法律事件とは、同条において列挙された事件と同視しうる程度に法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は、新たな権利義務関係の発生する案件をいうと解するのが相当」

加えて、次のように判示しています。

  • 弁護士法は、「訴訟等と同程度に紛争が発展した事件のみ」を独占業務としている。
  • 「訴訟等と同程度に紛争が発展した事件」とは、出資法違反など解決の対象自体が刑罰法規に違反する行為、多額の金額を争う事件、当事者が裁判での争いも辞さないことを明言している場合などを言う。
  • 「訴訟等と同程度に紛争が発展した事件」でなければ、例え紛争事件であっても行政書士は、契約代理や権利義務書類等の作成を業務とすることができる。

それぞれの具体的な事情

Bは最高裁へ上告中らしいので確定ではなく本来比べるものではないですが、上告理由が事実の評価(おそらく「訴訟と同程度の紛争が発展した事件」か?というところ??)らしいので。比べてみます。

Aの行政書士は示談代行という内容で業務契約書を被害者と交わし、その報酬についても曖昧に「経済的利益の~~%」というように濁しつつ「何の経済的利益か」についてもはっきりとさせず、結果的に130万円を請求したらしい。「そんな報酬は払いません」という被害者の相続人(被害者は亡くなった)を相手に、行政書士が「報酬を支払え」という裁判をしました。(噂では、行政書士の本人訴訟だとか。)これに対し被害者側は、行政書士との契約自体が錯誤無効だから報酬の支払い義務はないと主張したところ、裁判所に「契約は無効」と判断され、A書士の一件の全ては無効となり当然報酬の請求は却下、A書士が「仮に、、一部の書類作成の報酬は認められるべき」という主張に対しても無効だから全て無効、自賠責請求を含むA書士の交通事故に関する行為すべてが否定されました。

Bの行政書士は過払金返還請求の依頼を受けて書類を作成し、複数の業者との和解交渉で和解金の増額を求めたり、和解書の条項変更に代理人として記名押印するなどして和解を成立させ、報酬を受け取ったようです。結果的に一審ではその内の1件が弁護士法72条違反とされましたが、この1件が「出資法違反の疑いのある案件」だったらしく、その紛争性の高さは弁護士法72条でいう事件に該当すると判断されたらしいです。確かに、出資法違反は刑事罰なので事件だと思いますが、これは上告中なので参考まで。

この2つの裁判で感じるもの

Aの行政書士は、前回の記事で書いたA書士のことです。

私はA書士のHPしか見たことがないのですが、それでもその「示談代行」「法律相談」という記述内容を見て、

「確実に弁護士法違反でしょ」
「勘弁してくれ。はやくやめてほしい。行政書士が勘違いされる」
「行政書士なら法律相談という言葉は例え無料でも使わないでしょ」

と思っていました。そして当時、Aの判決の噂を聞いた時には「個別案件で何か悪いことでもしたから自賠責請求も否定されたのでしょう。」とも思い、特に気にしませんでした。

Bの行政書士は全く知りませんが、

「行政書士が過払い金の案件をやるとは、なんて勇敢なんだ」

と思いました。

私の感覚では過払い金請求自体、すでに行政書士の職域外でアウトだと思うのですが、この裁判では問題ないということになっています。もっとも、最高裁に上告しているみたいですが、上告の内容からして、この弁護士法は、「訴訟等と同程度に紛争が発展した事件のみ」を独占業務としているという判断自体は変わらないのが通常なのですが。

A書士には少しムカついた(私の感覚)

正直「自ら訴訟してボロ負けしてくれるな」という気持ちです。この裁判では自賠責請求もダメ!と判示されています。意味がわかりません。

例えるなら、不動産管理会社が家を借りている人に「今月の賃料の振込が確認できませんので早々にお振り込みください」と伝えていることが弁護士法72条違反だからダメ!とされたような感覚です。だれも不動産管理会社が賃料の振込がないことを伝えるくらい疑問に感じないでしょう。

私の知る限り、行政書士の自賠責請求は社会的に認知を受け、現に

行政書士印が自賠責に登録できるという事実。
損害保険でその行政書士報酬の支払が行われるという事実。
財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構に確認すると行政書士でも代理人OKだという事実。
自賠責は強制保険であるという事実。(他に強制保険には労災保険、国民健康保険、雇用保険などがある)

戦略法務行政書士事務所の考え方

私はかねてより、行政書士の「権利義務又は事実証明に関する書類」というのは、弁護士会の事件性不要説や行政書士会の事件性必要説などは参考にしつつも「そもそも、行政書士が作成できる「権利義務又は事実証明に関する書類」と弁護士法72条違反を論ずるのには事件性云々とかじゃなく、同じ行政書士法の条文(第一条の二 )で決められている「官公署に提出する書類」と同じレベルの「権利義務又は事実証明に関する書類」が行政書士の業務範囲で、法律だってこれを予定して定められたからこそ、行政書士法第一条の二の同列で示されているんだ 」と考えています。

行政書士の業務範囲は「官公署に提出する書類とこれに同じレベルの権利義務又は事実証明に関する書類」という認識です。

第一条の二  行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする。

第三条  弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。